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オフショア投資ガイド

Chapter1.1: オフショア投資先としてのシンガポール

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オフショア投資先としてのシンガポール

オフショア投資が必要な3つの理由

なぜ、オフショア投資を考えたほうがよいのでしょうか。理由が3つあります。1つ目は地政学的リスクからの分散のため、2つ目は金融商品の違い、3つ目は金融サービスの違いからです。

1. 地政学的リスク

日本では70年以上戦争がありませんが、世界では今この瞬間も紛争が続いている地域もあります。また、米中の緊張は日増しに大きくなり、戦争が起きるリスクもゼロではありません。そんな時にも自身の資産を保全するためにも富裕層は資産を世界中に分散して保管しているのです。

スイスのプライベートバンキングの歴史は11世紀の十字軍までさかのぼると言われています。19世紀はじめにスイスは永久中立国として条約が結ばれ、戦争の絶えないヨーロッパの地で不可侵の国となりました。つまり、資産保全に最も適しているところと言うことができます。ヨーロッパの富裕層には資産の置き場としてスイスを選ぶ人が未だに多いです。

仮に米中が戦争になれば、その同盟国はリスクにさらされ、そうではない安全な地域に資産を置いておくということが考えられます。デモなどの影響から資産を香港からシンガポールに移す人も増えています。筆者はシンガポールもアジアパシフィック地域ではスイスと同じような立場になりうると考えます。

戦争が起きなかったとしても地震や火山の噴火、インフレや日本の債務リスクの問題があります。私は子供の頃から祖母から第二次世界大戦による日本の債務調整(デフォルト)とインフレの話をよく聞かされていたので、現金、銀行預金、国債であっても通貨、国、預け先を選ばないと安全だと言えないと感じています。日本の富裕層の中には金地金やドルなどを金融機関ではないところに保管している人もいると聞きます。もちろん盗難リスクはあるのでタンス預金等のおすすめはできません。ひとつの選択肢として海外の金融機関を検討することも考えられます。日本固有のリスク以外にも世界情勢の変化からのリスクに備えて資産を分散しておくことは重要です。

この本では主に日本から近くて政治的にも安定しているシンガポールでの資産運用を中心に解説をしていきます。シンガポールにもローカルの銀行以外にもスイス系のプライベートバンクなど外資系の金融機関もたくさんあります。詳しくはプライベートバンクの章で紹介をしていきます。

2. アクセスできる金融商品の違い

資産運用をする上でまず覚えるべき金融商品は、株式、債券、商品の3つであり、これらの金融商品は世界共通です。

上場株式に関してはネット証券等の企業努力によって日本でも遜色なく取引ができています。それどころか、日本では保管料が無料、売買手数料も非常に安価です。主要な国の外国の株式も購入することができます。しかし、上場商品であったとしても、非常に人気のある海外ETF(上場投資信託)や海外REIT(不動産投資信託)中には日本の証券会社では取り扱いのない場合もあります。

海外の投資信託に関しても、日本の運用会社経由で投資をすることができる場合もあります。ファンズオブファンズ(投資信託のうち、運用会社が別の投資信託に投資するもの)という形などで投資ができるケースもあります。ただし、運用報酬が二重にかかる、日本語の目論見書等、余分なコストがかかるのでリターンが必ずしも海外の物と同じとは限らないというデメリットがあります。

債券の取引に関しては海外の金融機関では手数料(売買スプレッド)なども開示するなども多く一般に透明性が高くなっています。債券は相対市場なので売買の価格から手数料(売買スプレッド)をどれくらい引かれているのか投資家からは見えにくいです。日本の証券会社から購入する場合、証券会社が抱えている在庫の中から購入をしたり、支店が本店に取り次いで注文を出すなどで様々なコストがかかる場合があるようです。

しかし、マーケットに近いところで取引をすれば手数料や値段など、よい条件で取引をすることができます。シンガポールでは個人の投資家も比較的容易にプロ投資家宣言をすることができ、債券を購入することができます。また、日系企業がドル建てで発行している外国人投資家向けの社債なども取り扱いも外国ではあり、一般に円建てよりも利率が高くなります。

商品に関しては、先物取引、ETF、現物取引など日本でも遜色のない取引ができます。貴金属の積立サービスもあり便利です。海外では反対に貴金属の保管先を自分で探すなどのハードルがある場合があります。

このように、株式や商品などはそれほど変わらない環境ですが、債券やファンドなどに差があります。また、アジアのIPO市場にアクセスするにはシンガポールの金融機関を使うなどの工夫が必要です。反対に日本企業のIPOであれば日系の証券会社のほうがアクセスしやすくなります。やはり、日本の情報は日本の金融機関、ヨーロッパの情報はヨーロッパ等、餅は餅屋なのです。

また、スイスやシンガポールなどでは金融商品が進んでおり、日本では取り扱いのない金融商品がある場合もあります。グローバルな情報を取りたい場合は英語を勉強して、グローバルな金融機関を活用することが考えられます。

3. 金融サービスの違い

海外の金融機関のサービスは日本とは異なります。日本のように超富裕層を除いては一律のサービスではなく、エコノミー、ビジネス、ファーストクラス、VIP客と、顧客の預入残高に応じて受けられるサービスの質が変わります。ファーストクラスのプライベートバンクでは限られた顧客向けに優秀な担当者が付き、資産運用をテーラーメイドで受けることができる場合も多いです。ビジネスクラスはもう少し担当者が抱える顧客数が多くなり、顧客は良質なオンラインプラットフォームと併用しながらサービスを受けるなどです。いわゆるセミオーダーメイドのイメージでしょうか。エコノミーに関しては既製品という感じで日本の一般的な銀行のサービスと似ています。投資信託や保険の提案があるなどです。日本でも富裕層向けのコンシェルジュサービスの推進に力を入れていますが、ノウハウがある人材が不足しています。

また、ローカルバンクだけでなく、スイスなど欧州形のプライベートバンクやファミリーオフィスを始めとした数多くの外資系の金融業者が集まるのでたくさんの選択肢があります。銀行によって特色があるために自分にあった金融機関を選択することができます。また、フィンテックサービスも進んでいます。

金融機関の利便性に関しては、日本の金融機関とは比べ物になりません。複数の通貨を取り扱うことができる銀行のマルチマネー口座も一般的で、投資信託なども米ドル、ローカル通貨、オーストラリアドルなど複数のラインナップから選ぶことも可能です。為替手数料や海外送金など各種手数料も一般に日本と比べると安いです。

国際的に開かれた金融で、デジタルにも力を入れている金融機関も多いです。ローカル銀行のアプリ等で為替取引や送金などの指示ができます。また、金融サービスだけにとどまらず、自動車の売買仲介、新電力の契約斡旋、不動産の売買仲介などワンストップで様々なサービスを提供できるよう目指している金融機関もあります。

一定以上の収入や資産があれば、債券や投資信託を担保にして銀行から融資を受けられることができる場合もあります。債券、債券型の投資信託など比較的安全な資産にレバレッジをかけてインカムを膨らませることができるのです。長期間に渡って借り続けることもでき、10年以上融資を受け続けている人もいます。これに対して、日本ではFXや株式などリスクが高い金融商品にしかレバレッジをかけることができません。

富裕層の金融サービスやファミリーサービスを手がけるファミリーオフィスでは子供の願書のお手伝いからインターネット回線の設定までお手伝いをする会社もあります。金融だけではなく、生活周りの安心安全をサポートしてくれるのです。地方銀行の一部でも人材紹介等のサービスを始めているところもあり、それは銀行の未来を変えるものになるのかもしれません。

海外送金や外国のクレジットカードの利用が困難な日本のサービスと比べると雲泥の差です。銀行はお金を単に預ける場所ではないのだと、海外で生活をして気づきました。そして、一度世界標準のよいサービスを体感してしまうと、もう元には戻れなくなります。

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