世界の富は、どこへ向かっているのか

シンガポールでは今、世界中の創業家や富裕層の資産が集まり続けています。

その象徴が、ファミリーオフィス(Single Family Office:SFO)の増加です。

MAS(シンガポール金融管理局)の公表によると、税制優遇制度(13O・13U)の適用を受けるSFOは、2020年末には約400でした。それが2022年には約1,100、2023年には約1,400、そして2024年末には2,000を突破しました。わずか4年間で約5倍という驚異的な伸びです。

一方、香港も富裕層の誘致を国家戦略として進めており、2025年には約3,380のSingle Family Officeが存在すると公表しています。

つまり今、アジアでは「世界の富をどこへ呼び込むか」という競争が、国家レベルで進んでいるのです。

しかし、ここで一つ疑問があります。

シンガポールでは近年、13O・13Uの最低運用資産要件が引き上げられ、経済的実体(Economic Substance)への要求も厳しくなりました。普通に考えれば、規制が厳しくなれば利用者は減るはずです。

それにもかかわらず、世界中の創業家は、なぜ今もシンガポールを選び続けているのでしょうか。

その答えは、「節税」ではありません。

世界の創業家が投資しているのは、100年先まで一族の資産を守るためのガバナンスです。

私はシンガポールで多くの富裕層や金融関係者と接してきましたが、中国系や欧米系の創業家がファミリーオフィスを活用する目的は、日本で語られるような「税制メリット」だけではありません。誰が資産を管理し、誰が意思決定を行い、次世代へどのように承継していくかという、一族全体の設計図を作ることに重点が置かれています。

今回は、UBS、Campden Wealth、Deloitteなどの最新レポートも参考にしながら、世界の創業家が何を考え、なぜシンガポールを選ぶのか、その背景を読み解いていきたいと思います。

── 世界の創業家は何を重視しているのか

世界最大級のファミリーオフィス調査機関であるCampden Wealthの最新のグローバルレポートによると、多くのファミリーオフィスが現在最も重視しているテーマは以下の4つに集約されます。

* 次世代への事業・資産承継

* ファミリーガバナンス(一族の統制・家訓)の確立

* プライベート市場(未公開株・不動産等)への投資

* 地政学リスクへの対応

一方で、「税金対策」は重要ではあるものの、それだけを目的にファミリーオフィスを設立しているケースは世界的には少数派となっています。この点は、目先の節税スキームに終始しがちな日本の富裕層の思想と、世界の創業家の考え方の決定的な違いとして非常に興味深いところです。


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